事業部別のWACC

企業のWACCを計算する場合、レバードβ、有利子負債、負債コストrD、時価総額、リスクフリーレートrFを調べ、rDとrEの加重平均を計算すればWACCを計算することができる。企業の経営者をこのWACCを元に様々な投資の価値評価を行うわけである。

しかし、複数の事業を多角化して行っている企業はこのようにして算出したWACCを用いて投資評価をしてはいけない。なぜなら、市場の情報から計算したWACCは各事業の資本コストを加重平均した値であった、各事業のリスクが異なる場合、全社のWACCより資本コストが高い事業部もあれば、低い事業部もあるわけである。これを無視して各事業部の投資価値評価を行う場合、本来価値を生む投資なのに(NPV>0)投資を見送ったり、逆に本来資本コストより低いIRRなのに投資決定してしまったりするのである。よって、複数の事業をもつ企業の場合、各事業部ごとのWACCを計算しなければいけない場合があるのである。


各事業部ごとに(通常通り)、ベータ、負債・・・と調べて加重平均すればよいのだが、市場から調べることができるのが全社の情報でしかない。ではどうするか?答えはやはり市場から聞く、である。ただし、自社ではなく、他社の情報である。もしA製品事業部と、B製品事業部があった場合、その製品事業を専業としている企業の情報を使うのである。その企業のβを調べるわけだが、そのβはその企業の資本構成を反映したレバードベータであるから、アンレバード化しなければならない。また、一社だけではなく、数社のアンレバードβを平均してその製品事業のリスクを算出する。

そのようにして算出したその製品事業のアンレバードβを自社の資本構成(その事業のリスクに見合った資本構成。この辺は経営者の感覚か)に従ってリレバーしてA製品事業のレバードβ、株主資本コストを算出する。あとは、通常通りWACCを計算すればよい。ただ、B製品事業部のWACCを同様にして計算してもよいが、全社のWACCが算出できているのでそこから逆算する方法もある。その場合、どのように逆算するかは、各製品事業部にどのくらいの資本が投下されているかで加重平均されているとして計算する。各製品事業に使われている固定資産の額などがそれに当たる。

全社WACC = A製品事業部固定資産の比率 * A製品事業部WACC + B製品事業部固定資産の比率 * B製品事業部 WACC
(固定資産の比率とは全固定資産の中でA製品事業に使われている固定資産の割合)

全社のWACCから逆算するか、B製品事業部を独立に算出するかは、一長一短があると思うが、特に自社に特別な経営環境の変化おきていないのであれば、せっかく全社のWACCが精度よく計算できているのであるから、全社のWACCから計算した方が精度が高いのではないかと思う。
by km_g | 2009-11-13 11:47 | ファイナンス