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マルチプル法

  • マルチプル法とは?


マルチプル法というのは、企業の価値(時価総額や企業価値)を企業の単年の収益の何倍か?という点から算出するバリュエーション方法。他のDCF法などのバリュエーション方法と比べて簡単なため広く使われている。


  • マルチプルの意味


企業価値の定義は、企業が将来に渡って生み出すCFの現在価値である。これは常に正しい。ではマルチプル法で算出される企業価値とこの理論値とはどんな関係があるのか。

DCF法の定義は、

企業価値=∑ FCF / (1- WACC )

である。FCFが一定の成長率gで成長すると仮定するとこの式は簡単化されて(等比級数の公式より)、

企業価値 = FCF / (WACC -g )

=FCF × 1 / ( WACC - g)

となる。少し変形すると、

企業価値 / FCF = 1 / ( WACC - g)

となる。この右辺がマルチプルである。つまり、マルチプル法とはDCF法と本質的に等価である。
右辺は、FCFの成長性、資本コスト、投資利回り(ROIC)で決まる。


企業価値/FCF = (成長性、資本コスト、ROIC)

つまりマルチプルの中身は、その企業の成長性と資本コストとROICを表している。10倍とか12倍などの数字は、それぞれの企業の成長性、資本コスト、ROICを総合的に(市場が)評価した結果の値である。マルチプルが大きい企業と言うのは、成長性が高いか、ROICが高いか、資本コストが小さいかのどれか、ということになる。


  • マルチプル法の使い方

マルチプルは、企業価値とFCFの比だけではない。営業利益の何倍か、売上の何倍か、など基準はいろいろ使われる。マルチプルを違う言い方で言うと、

マルチプル:(時価BS)/(PLの収益)

ということである。

ざっくりとした使い方のイメージは、類似企業を何社か選んで、それぞれの企業ごとに(例えば)企業価値と営業利益の比を算出する。A社は10倍でB社は12倍など。この10倍とか12倍と言う数字がマルチプル。選んだ数社のマルチプルがおよそ10〜12倍であるとする。そして、求めたい企業の営業利益が50であったとすると、その企業の企業価値は、50の10〜12倍で、500〜600であろう。という感じ。


  • マルチプルの注意点


マルチプルを使う時の一番の注意点は、どの数字(PLの収益)を使ったらよいか、相方のBSはどの部分を使ったらよいか。の2点。

よく使われるのは以下の科目である。

時価BS項目
・企業価値
・株主価値

PLの収益
・純利益(PER)
・EBITDA
・EBIT
・FCF
・売上高
・(純資産)PBR


○どの数字(PLの収益)を使ったらよいか。

一番理想なのは、FCF。なぜなら、FCFが定義に一番近いから。‘近い’とはノイズが含まれていないということ。例えば当期純利益は、CFとは関係ない例えば、有価証券評価損や特別に大きな引当金などがあった場合、ほんとは同じマルチプルなはずなのに大きな乖離が生じてしまう。また、売上高マルチプルは、営業利益率の違いを無視していることになる。例えば、同じ100の売上高を上げている二つの企業があったとして、片方Aは営業利益20、もう片方Bは5だったとする。どちらも資本コストが同じ(10%)で、成長率が0%だったとする(簡単のために減価償却=投資、売上高の変化がゼロなので運転資本の変化はもゼロ)。企業Aの売上高マルチプルを使って企業Bの企業価値を算出してみると、、、(いつもの永久型の式)

A企業価値 = 20/10% =200
企業価値/売上高 = 200 / 100 =2

この2というマルチプルを使って、企業Bの企業価値を算出すると

B企業価値= 2 * 100 = 200 @売上高マルチプル法での算出結果

となる。しかし、DCF法を使って正確に企業価値を求めると、

B企業価値 = 2 /10% =20 @DCF法

このように、売上高マルチプルは営業利益率の差を無視してしまう。このような観点から、よく使われるマルチプルは、

EBITマルチプル = 企業価値 / EBIT
EBITDAマルチプル = 企業価値 /EBITDA
PERマルチプル = 株主価値 / 当期純利益

ノイズが大きくても、数字が見つけやすい、簡単という利点からPERマルチプルも使われる。


○相方のBSはどの部分を使ったらよいか

簡単な覚え方は、用いるPLの収益は誰の取り分か?という考え方。例えば、営業利益。営業利益には、債権者の取り分と株主の取り分が含まれている。だから、比の相方は負債と株主資本の合計である企業価値。当期純利益は、すべて株主の取り分だから相方は、時価総額。と言う感じ。

間違って当期純利益と企業価値のマルチプルを使うとどなるか。MM理論より、企業価値と負債比率は無関係(節税効果はここでは無視)。ってことは、負債比率がたとえ違っていてもFCFの額が同じ企業の企業価値は同じとなるはず。しかし、当期純利益は支払利息を通じて、負債の大きさを反映してしまう。負債が大きい企業は当期純利益は小さくなり、企業価値をマルチプルの相方としてしまうと、企業価値を小さく見積もってしまう。ほんとはもっと大きいのに。。


○類似企業はどの企業を選択したらよいか

マルチプル法の意味合いに戻ると、マルチプルの中身は成長率、リスク、であった。つまり、これらが似ているかどうかが、類似企業選択の基準である。リスクが似ているためには、業種、業態が似ていることが必要である。また固定費比率もCFのばらつきに影響を与えるので企業規模も似ているとなおよいかもしれない。また成長率が似ている必要もあるため、過去のCFの成長率も比較検討する必要がある(なお、成長率については似ている必要はない。詳しくは利益倍率を参照。)。


○発射台は正常か

企業収益は様々な要因で変動する。例えば純利益。大きな設備投資、リストラ、台風による工場修理費、などなど。マルチプル法の分子である発射台の値は当該企業の正常な値である必要がある。



○余剰現金の扱い

余剰現金とは、事業に無関係な現金のこと。上の議論は余剰現金を無視したが実際は余剰現金の調
整をしてからマルチプルを計算しなければいけない。企業の時価総額は、事業の価値とその余剰現金
の価値の合計が反映されている。マルチプルを計算する時は、

企業総価値 = 時価総額 + 負債 - 余剰現金

としてからそれぞれのマルチプルを計算する。企業総価値と企業価値は区別する。特にこの( 負債 - 余剰現金 )を純負債(ネットデット)と呼ぶ。クラスで企業価値はD+Eと習うけど、一般的には、そこから余剰現金を引いた企業総価値で会話することが多い。余剰現金を引き算する意味は、余剰現金を含んでしまっている企業価値から、余剰現金を引き算することで純粋に事業の価値で企業間を比較するため。



○どういう前提でバリエーションしているか

例えば、企業買収側が対象企業の価値計算をしているのか、ベンチャー企業が上場時の株価算出をしているのか。いろいろある。理論的には上で書いてきたような使われ方をするが、実際は場合によって好まれるマルチプルがある。

・M&Aの時 EB / EBITDA
企業価値をより精度よく算出したいことからより理論に近いEV / EBITDAが使われる。

・上場時の株価算出 PERマルチプル
市場が絡むと、市場が何で価格を決めているか、が重要となる。市場はPERで株価を決めている傾向が強い。理由は、上で書いたように簡単だから。だから、ベンチャー企業の上場株価算出などの時はPERマルチプルを使う。



  • 実際の使い方、手順


1. 類似企業を数社選ぶ
2. それら企業の次年度のPLを用意。株価は今年度の収益ではなく未来の収益を反映するから。
3. それぞれの企業に今年度大きな事件がないか確認。あればその企業は排除
4. それぞれの企業の時価総額を調べる。株価×発行株式数
5. 余剰現金を算出。余剰現金=バランスシート現金同等物 - 売上高の10日分(普通は現預金+有
価証券全部を余剰現金とすることが多い。)
6. 企業総価値を算出
7. 時価総額や企業価値を求めたい企業の次年度のPLを用意。
8. 類似企業のEBITマルチプル、営業CFマルチプルなどを算出。平均を計算してはだめ。最大と最
低を認識。その幅も意味がある。
9. 求めたい企業の収益とマルチプルを掛け算し、企業価値を算出。例えば100〜300みたいに範囲
をもって算出。





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by km_g | 2011-01-24 14:45 | ファイナンス