配当と自社株買い



■全員か、一部か

 企業が上げた利益は、現預金として蓄積される。これは、原価、人件費、税金など払うべき費用を払った後に残ったものなので、事業に関わる最低限の現金は別として株主のモノであり還元しなければいけない。その方法には配当と自社株買いがある。下手に現金を持ちすぎると、いらないものを買ったり投資なくてもよいものに投資したりあまり良いことはないと言われる。

配当は、年に1〜2回現金で支給される。当期純利益の中からどのくらいを配当に回すかという指標である配当性向は3〜4割と言ったところだろう。自社株買いとの違いを考える上で大事なところは、全ての株主に均等に収益を還元する方法である、という点である。

一方、自社株買いは、特定の株主にだけ収益を還元する方法である。企業が自社株買いを募集する場合、それに賛同するかどうかは株主次第。保有する株式資産を現金化したい投資家は応募するだろうしそうでない株主は応募しない。買取価格が高いと感じる株主は応募するし、そうでない株主は応募しない。

このように、配当と自社株買いは収益を株主に還元する方法としては本質的に等価であるが、全体か部分という意味で違いがある。


■シグナリング効果

配当にしろ自社株買いにしろ企業はどうして、いつ、それらを実行するのだろう。配当を上げるときもあれば下げる時もあるし、自社株買いをするときは理由があるはずである。

自社株買いをするということは、要は市場から株価を買うことである。いつ自社株買いをするかというと、当然株価が安い時である。高い時に自社株買いを実施したら、本来の株式の価値以上の現金を還元したことになるので企業価値は下がる。ここでポイントなのは企業側が株価を安い高いかを判断するところである。市場には神の手が働き短期的には間違が長期的には企業の本来の価値を示す。しかしこの前提は、情報が完全に市場に伝わっている場合である。企業側は新しい技術の開発、逆に失敗など、市場よりも当然自社について多くの情報を持っている。と言うよりも市場がそう「思っている」ところがポイントである。ということは、企業側の方が市場よりも株価の判断が性格だということになる。そのような企業が自社株買いをするということは、「今の株価は本来の価値より安いに違いない」と市場は判断するのである。よって、自社株買いを発表すると(一般的には)株価は上昇する。これがシグナリング効果である。

配当も同様である。ただし配当の場合は、自社株買いよりも上げたり下げたりが自社株買いと比較して自由ではなく、またゼロだったり100だったりと大きく変動することはしない。つまり、一度上げたら、しばらくは下げにくい。ということは、仮に将来もしかしたら利益が低下すると「知っている」企業側は配当を上げたりしない。すなわち、配当を上げる企業というのは中期的に収益が下ぶれする可能性が低いと少なくとも企業側が判断している企業である。このような企業の株価も上昇する。

配当と自社株買いもどちらも企業の株価は上昇するが、このように配当の方が機動性がないためそのインパクトは配当の方が大きい。


■逆も?

収益のうち配当に回らなかった分はどうなるのか。現金としてBSに貯まるかもしれないが、一般的には事業への投資となることが多いだろう。配当や自社株買いが多い企業はそうでない企業に比べて投資意欲が少ない企業である。投資ない企業に成長はあるだろうか。収益の全部を配当に回してしまう企業に成長はあるだろうか。こう考えると、配当や自社株買いをしている企業の株価は上記とは逆に下がりそうにも思う。どっちなのだろうか?

これは現在の株価が将来のどのような前提にともなって形成しているかによるのではと思う。株価はDCF法からわかるように将来のCFの現在価値で算出される。その時永続成長率は株価のほとんどを決定すると言って良い。その成長率をどうみなしてその株価が形成されているかが重要なのである。もし、成長を前提として株価が形成されているならば、そんな企業が突然大きな自社株買いを行ったら、「もう成長も終わりか」と判断し、株価は低下するだろう。しかし、JRのように成長はそもそも期待していない企業が自社株買いをしたならば、株価ってほんとは安いのかな?と判断され株価は上がるだろう。


経営者は、このように自社の現金還元政策が市場に与えるシグナリング効果を認識し、本来と異なるメッセージが伝わってしまうおそれがある場合は、IRをしっかり行い、その意図を正確に市場に伝えることが重要である。
by km_g | 2011-01-29 14:38 | ファイナンス