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M&Aでの企業価値評価

企業価値評価と言ったら、DCFとかマルチプルとかを思い浮かべる。しかし、企業の価値を算出するときは、誰が何のために行うのか注意しないといけない。経営者が自社の企業価値を算出する場合は、自身の事業計画を織り込んだ財務予測を作成しDCF法を用いて、算出するのが一番いいだろう。

しかし、M&Aの買収者が被買収会社の価値を算出する場合はちょっと異なる。それは相手がいるから。当然ながら、買い手はなるべく安く買いたいだろうし、売り手はなるべく高く売りたい。こんな時にDCF法なんか使ったら、決着がつかない。もちろんDCF法は参考値にはなるだろうが、それだけで価値を決定することはほとんどない。

一般的には3つの方法で総合的に決定する。DCF法の他に、類似企業比較法、類似取引比較法を使う。類似企業比較法とはマルチプル法のこと。そして、類似取引比較法とは、過去のどうような案件での価格を参考にする方法である。これら二つの方法のポイントは市場、相場観というところ。

類似取引比較法のポイントは、プレミアムである。市場価格に対して、どれほど上乗せして取引が成立したかがかなり説得力をもってくる。そもそもなぜ買い手はプレミアムを払わなければいけないのか。市場価格が100円なら100円で買えるはずのような気もする。プレミアムの根拠は、支配権にある。一般的な小口の株主には、拒否権も経営権もない。つまり、1株×100より100株×1の法が価値があるのである。では、そのプレミアムはどのくらいか?一般的な事例では3〜4割と言われている。つまり、DCF法で算出した企業価値と類似取引比較法では異なる量を測定しているのである。この点が重要である。

買い手はDCF法やマルチプルで算出した結果にプレミアムをのっけた価格を支払うべきだろうか。ここも重要なポイントである。そもそも買い手がある企業を買収する理由は、買った価格以上の価値があると思うからである。価値とは、その企業単体の価値にシナジーを加えた価値である。もしシナジーよりプレミアムが高かったらどうなるかというと、買った企業の企業価値は低下するのである。買い手は、シナジー効果以上のプレミアムを支払ってはいけないのである。

もし、シナジー効果が当該企業の価値の2割程度しか生まれないようであれば、その案件はうまくいく可能性が低い。買い手にとってM&Aとは、マイナス30%の利回りからスタートする非常に怖い投資なのである。よほどの自信と綿密なDD、計画がなければやめた方が無難そうな気がする。

もう少し詳細な計算
by km_g | 2011-01-31 00:12 | ファイナンス

配当と自社株買い



■全員か、一部か

 企業が上げた利益は、現預金として蓄積される。これは、原価、人件費、税金など払うべき費用を払った後に残ったものなので、事業に関わる最低限の現金は別として株主のモノであり還元しなければいけない。その方法には配当と自社株買いがある。下手に現金を持ちすぎると、いらないものを買ったり投資なくてもよいものに投資したりあまり良いことはないと言われる。

配当は、年に1〜2回現金で支給される。当期純利益の中からどのくらいを配当に回すかという指標である配当性向は3〜4割と言ったところだろう。自社株買いとの違いを考える上で大事なところは、全ての株主に均等に収益を還元する方法である、という点である。

一方、自社株買いは、特定の株主にだけ収益を還元する方法である。企業が自社株買いを募集する場合、それに賛同するかどうかは株主次第。保有する株式資産を現金化したい投資家は応募するだろうしそうでない株主は応募しない。買取価格が高いと感じる株主は応募するし、そうでない株主は応募しない。

このように、配当と自社株買いは収益を株主に還元する方法としては本質的に等価であるが、全体か部分という意味で違いがある。


■シグナリング効果

配当にしろ自社株買いにしろ企業はどうして、いつ、それらを実行するのだろう。配当を上げるときもあれば下げる時もあるし、自社株買いをするときは理由があるはずである。

自社株買いをするということは、要は市場から株価を買うことである。いつ自社株買いをするかというと、当然株価が安い時である。高い時に自社株買いを実施したら、本来の株式の価値以上の現金を還元したことになるので企業価値は下がる。ここでポイントなのは企業側が株価を安い高いかを判断するところである。市場には神の手が働き短期的には間違が長期的には企業の本来の価値を示す。しかしこの前提は、情報が完全に市場に伝わっている場合である。企業側は新しい技術の開発、逆に失敗など、市場よりも当然自社について多くの情報を持っている。と言うよりも市場がそう「思っている」ところがポイントである。ということは、企業側の方が市場よりも株価の判断が性格だということになる。そのような企業が自社株買いをするということは、「今の株価は本来の価値より安いに違いない」と市場は判断するのである。よって、自社株買いを発表すると(一般的には)株価は上昇する。これがシグナリング効果である。

配当も同様である。ただし配当の場合は、自社株買いよりも上げたり下げたりが自社株買いと比較して自由ではなく、またゼロだったり100だったりと大きく変動することはしない。つまり、一度上げたら、しばらくは下げにくい。ということは、仮に将来もしかしたら利益が低下すると「知っている」企業側は配当を上げたりしない。すなわち、配当を上げる企業というのは中期的に収益が下ぶれする可能性が低いと少なくとも企業側が判断している企業である。このような企業の株価も上昇する。

配当と自社株買いもどちらも企業の株価は上昇するが、このように配当の方が機動性がないためそのインパクトは配当の方が大きい。


■逆も?

収益のうち配当に回らなかった分はどうなるのか。現金としてBSに貯まるかもしれないが、一般的には事業への投資となることが多いだろう。配当や自社株買いが多い企業はそうでない企業に比べて投資意欲が少ない企業である。投資ない企業に成長はあるだろうか。収益の全部を配当に回してしまう企業に成長はあるだろうか。こう考えると、配当や自社株買いをしている企業の株価は上記とは逆に下がりそうにも思う。どっちなのだろうか?

これは現在の株価が将来のどのような前提にともなって形成しているかによるのではと思う。株価はDCF法からわかるように将来のCFの現在価値で算出される。その時永続成長率は株価のほとんどを決定すると言って良い。その成長率をどうみなしてその株価が形成されているかが重要なのである。もし、成長を前提として株価が形成されているならば、そんな企業が突然大きな自社株買いを行ったら、「もう成長も終わりか」と判断し、株価は低下するだろう。しかし、JRのように成長はそもそも期待していない企業が自社株買いをしたならば、株価ってほんとは安いのかな?と判断され株価は上がるだろう。


経営者は、このように自社の現金還元政策が市場に与えるシグナリング効果を認識し、本来と異なるメッセージが伝わってしまうおそれがある場合は、IRをしっかり行い、その意図を正確に市場に伝えることが重要である。
by km_g | 2011-01-29 14:38 | ファイナンス

会社は誰のモノ?

会社は誰のもの?

事業を行った収益はどうなるか。顧客から売上をいただき、まずその製品の製造にかかった費用、製造原価が差し引かれる。次に、その製品を販売するのにかかった費用として、販売費・管理費を自社の営業部隊、管理部に支払う。その残りが営業利益。

そこから、債権者への支払いである利息が差し引かれる。その残りが税引前利益。そこから次に国への支払いである税金が差し引かれ最終的に残った利益が当期純利益。

このように、会社はあらゆるステークホルダーによって支えられている。会社の議決権と言う意味では確かに株主のモノであるが、誰によって支えられているか?と考えれば、「みんな」である。

当期純利益はだれのものか?と言えばそれは当然株主のものである。当期純利益の積み重ねである、BSの現預金も株主の物である。企業に敵対的買収をしかけ、保有現金の掃き出しを要求するファンドの行動はこう考えると筋が通っている。経営者は余剰になった現金は、きちんと株主に返さないといけない。
by km_g | 2011-01-28 16:51 | ファイナンス

財務政策とは?

財務政策とは?

提言すべき財務政策は?と聞かれた場合何を考えたらよいだろうか。

■■まず課題と打ち手の方向性
ファイナンスの科目にありがちなのが数字にばっかり走って細かい計算に時間をとられ、たくさん感度分析をしたが、「で、?」と言われると何も言えないって状況が多い。定量分析はあくまで定性分析とセット。これを忘れちゃいけない。

現状分析(戦略的思考をしながら)をし、問題らしきことを見つけ、課題を自分で定義する。そこから戦略オプションをミーシーで把握し、自社の置かれている状況、課題に照らし合わせて優先順位を付ける。


■静と動
■静:どういう状態であるべきか。
静とは、自社の財務状態がどうあるべきか?ということ。CFのボラティリティの程度、PLCの段階、市場でのポジション、マーケットの状況などの観点から考える。具体的には、格付けをどうすべきか、がまず重要になる。格付けは高いほど債務の返済可能性が高いということ。ビジネス特性、自己資本比率、自社の強さなどから格付け会社が判断する。

ここで重要なことは、格付けが高いほど、「良い」とは限らないということ。格付けが高いほど確かに負債を安く調達(負債コストrDが小さい)できるが、本来享受できたはずの節税効果を失っていることになる。これはフィナンシャルバイヤーにとってとても魅力的な状態で、LBOの対象になってしまう。つまり企業価値が最大化されていないということ。

では、格付けが悪いとどうなるか。BBBを下回るとその会社の債権はジャンクボンドと見なされ機関投資家によってルール上買えない債権になってしまうおそれがある(当然ながら負債コストはBBBを境に急に高くなる。)。機関投資家は、企業にとって重要な(お金をたくさんもってる債権などの重要お得意様)お客さんでありそこに債権を買ってもらえないということは、資金がほしい場合大きな痛手である。

よって、企業価値の観点からはBBB以上AAA未満と言ったところが一般的な攻めどころとなる。ちゃんと計算するとA〜AAくらいで資本コストが最小になることが多い。しかし、あくまで一般論。自社が今後リスクの高いビジネスに挑戦しようとしていたり、いつかはわからないがそのうちたくさんのお金を必要とするならば、少し余裕をもってAAの基準よりやや高い格付け基準領域に保っておいて、資金調達の機動性を確保しておくのも大いにありうる。

このように自社のBSの左(事業特性)と右(資金)を総合的に最適化する考え方をALM(Asset liability
Management)と言う。これには、上で言ったことだけじゃなく、為替、返済スケジュール、投資家の好み、まで考える


■動:今、今後どうすべきか。
静のところで考えたように、自社のBSはどうあるべきか、がある程度把握できたならば現在の状況を分析し、今、今後どうすべきか考える。戦略から財務計画に落し込み、それであるべき資本構成になっていない、またはお金が足りないならば、資金を調達しなければならない。増資なのか借入なのか社債なのか、転換社債なのかワラント債なのか、それは自社の財務状況、マーケットの状況を考慮して決めていく。その時、ホントに’今’なのか、申込し待ったほうが良いのでは?と時間も意識する。

他に、自社が今後成熟へ向かい負債を多くすべきだったり、貯めた現金を投資家に返すこともあるかもしれない。配当で返すのか、自社株買いなのか、これも時と場合による。一般的に配当は、上げたり下げたりといった機動性がない分自社株買いより好まれない場合が多い。ただ、それもIRの観点からあえて配当を選ぶこともある。


こんなところか。
by km_g | 2011-01-26 19:42 | ファイナンス

DCF法時の業績予測

■各年のキャッシュフロー予測の期間と詳細
■ある程度は厳密にPLを作り、ある程度以降は、継続価値として予測する。この‘ある程度’とは何年か?CFが安定になるまで厳密に予測する。ここでの‘安定’とは、
○成長率
○新規投資に対するリターン→RONIC
○投下資産利益率
これらが一定という意味。これらが一定になった場合に始めて永久成長型とか一定成長型とかの式が使える。昔、早稲田のM&Aの講義を受けた時、買収側は5年先の月次のPLまで正確に作れるくらい見通しがしっかりしていなければいけない、と言っていた。M&Aは高いプレミアムを払って買収するわけだからこのくらいの気合は必要。この本では、10〜15年は詳細PLを作れと言っている。でもPLCに注意。

○企業価値算出する場合は、ゴーイングコンサーン(永久に存続)を前提とするため、継続価値算出の必要がある。しかし、プロジェクトのNPVを計算する時は、永久ではなく、一定期間までの価値を算出する場合が多い。その時は、運転資本の回収、資産売却の可否、額(売るなら誰が買うのか?を必ず考える)、簿価上では益がでるのか、損がでるのか、税金注意。

■将来予測の構造
■予測のステップ
1.過去の財務諸表を作成、比率分析
PL、BS、できればCF計算書も用意。PLは各費用の売上高比率、売上高成長率を見ておく。もし商品がわかりやすければ、数と価格とわけで分析しておく。あと、見やすくシートを作る。額と比率はなるべく別に作る。

2.売上高予測
○ボトムアップ
顧客の需要予測を基に売上高を予測する。この方法は、顧客の数が少ないBtoBの場合に有効??
○トップダウン
こちらが一般的か。市場規模、普及率、価格、マーケットシェアから売上高を予測。単純に何%成長として予測しない。企業の強さやビジネス感覚を併用して、おかしな予測になっていないか常にチェック。定性分析が重要。予測はあくまで予測であって当たる保証はない。予測に幅を持たせることが重要。感度分析とか。ワーストケースのチェック。予測は現在の意思決定のために行っていることを忘れない。


3.損益計算書
○流れ
①各項目が何により連動しているか。つまり、どの指標と相関があるのかを見つける。その指標を使って予測をしたいから。多くの費用は売上高と相関が強いはず。BSの数字との比率も見ておく。固定資産と減価償却費、負債と支払利息など
②連動する項目に対する比率を予測する。過去からの流れ、定性分析から判断。まず、過去の流れを踏襲して比率を予測して、あとから調整を順次加えていくのがよい。
③売上高と比率の予測が終わったら、それらを掛け算して売上原価などの数値を埋めていく。


4.貸借対照表
○ストックアプローチとフローアプローチがある。フローアプローチとは、例えば、売上げが100増加した時、売掛金が20増加することを利用して、150増加したなら売掛金が30増加すると考える予測方法。しかし、100から150の変化と10000から10050の変化を同じと見なすため、規模が大きく変化する場合は注意が必要か。1から2の変化と、100から101の変化は異なるのが一般的。それに対して、ストックアプローチとは、変化ではなく、売上高そのものに対する比率で予測する方法。売上げ比率を使って分析するいつもの方法はこっち。どっちがよいかは状況による、過去のBSをどちらの方法でも分析してみて、比率なりが大きくばたつかない方法で未来を予測するのがよい。この本によると、ストックアプローチ(いつもの方法)が良いと言っている。よって、いつもの方法で特に問題ない。

○BSの数字は、BSの中での比率分析しておらず、PLの数字との比率分析している点に注意。買掛金や在庫は売上高ではなく、売上原価との比率で予測している点に注意。売上原価も売上高との比率で分析するから、数学上、売上原価でも売上高でもどちらの比率を使ってもよいが、誰かに説明する時は予測のロジックが重要。

5.投下資産の予測
○クリーンサープラス原則とは、当期純利益とBSの純資産の増減が一致しているという法則。
○BSの最終調整は、右側は有利子負債、左側は余剰現金で行う。10年くらい長期で予測する時は、資本構成がどうなっているか注意。WACCに影響するから。余剰現金が溢れるなら配当金か自社株買いとして吐き出す。有利子負債が溢れるときは、赤字の場合だが、格付けも確認して、負債コストを確認。

6.ROICの確認
○企業価値評価の場合は、各年どのくらい投資するかを設定する必要があるが、ROICを見て、10年にもわたってROICがWACCを上回っているならその根拠を明らかにする必要あり。

○ROICはいずれ、WACCと同じ値に収束するか、業界や経済全体の中間値、長期に競争優位をもつ、のいずれか。図表6−5は競争優位のパターン。
○WACCとROICを比較してチェックする。
by km_g | 2011-01-26 09:49 | ファイナンス

マルチプル法

  • マルチプル法とは?


マルチプル法というのは、企業の価値(時価総額や企業価値)を企業の単年の収益の何倍か?という点から算出するバリュエーション方法。他のDCF法などのバリュエーション方法と比べて簡単なため広く使われている。


  • マルチプルの意味


企業価値の定義は、企業が将来に渡って生み出すCFの現在価値である。これは常に正しい。ではマルチプル法で算出される企業価値とこの理論値とはどんな関係があるのか。

DCF法の定義は、

企業価値=∑ FCF / (1- WACC )

である。FCFが一定の成長率gで成長すると仮定するとこの式は簡単化されて(等比級数の公式より)、

企業価値 = FCF / (WACC -g )

=FCF × 1 / ( WACC - g)

となる。少し変形すると、

企業価値 / FCF = 1 / ( WACC - g)

となる。この右辺がマルチプルである。つまり、マルチプル法とはDCF法と本質的に等価である。
右辺は、FCFの成長性、資本コスト、投資利回り(ROIC)で決まる。


企業価値/FCF = (成長性、資本コスト、ROIC)

つまりマルチプルの中身は、その企業の成長性と資本コストとROICを表している。10倍とか12倍などの数字は、それぞれの企業の成長性、資本コスト、ROICを総合的に(市場が)評価した結果の値である。マルチプルが大きい企業と言うのは、成長性が高いか、ROICが高いか、資本コストが小さいかのどれか、ということになる。


  • マルチプル法の使い方

マルチプルは、企業価値とFCFの比だけではない。営業利益の何倍か、売上の何倍か、など基準はいろいろ使われる。マルチプルを違う言い方で言うと、

マルチプル:(時価BS)/(PLの収益)

ということである。

ざっくりとした使い方のイメージは、類似企業を何社か選んで、それぞれの企業ごとに(例えば)企業価値と営業利益の比を算出する。A社は10倍でB社は12倍など。この10倍とか12倍と言う数字がマルチプル。選んだ数社のマルチプルがおよそ10〜12倍であるとする。そして、求めたい企業の営業利益が50であったとすると、その企業の企業価値は、50の10〜12倍で、500〜600であろう。という感じ。


  • マルチプルの注意点


マルチプルを使う時の一番の注意点は、どの数字(PLの収益)を使ったらよいか、相方のBSはどの部分を使ったらよいか。の2点。

よく使われるのは以下の科目である。

時価BS項目
・企業価値
・株主価値

PLの収益
・純利益(PER)
・EBITDA
・EBIT
・FCF
・売上高
・(純資産)PBR


○どの数字(PLの収益)を使ったらよいか。

一番理想なのは、FCF。なぜなら、FCFが定義に一番近いから。‘近い’とはノイズが含まれていないということ。例えば当期純利益は、CFとは関係ない例えば、有価証券評価損や特別に大きな引当金などがあった場合、ほんとは同じマルチプルなはずなのに大きな乖離が生じてしまう。また、売上高マルチプルは、営業利益率の違いを無視していることになる。例えば、同じ100の売上高を上げている二つの企業があったとして、片方Aは営業利益20、もう片方Bは5だったとする。どちらも資本コストが同じ(10%)で、成長率が0%だったとする(簡単のために減価償却=投資、売上高の変化がゼロなので運転資本の変化はもゼロ)。企業Aの売上高マルチプルを使って企業Bの企業価値を算出してみると、、、(いつもの永久型の式)

A企業価値 = 20/10% =200
企業価値/売上高 = 200 / 100 =2

この2というマルチプルを使って、企業Bの企業価値を算出すると

B企業価値= 2 * 100 = 200 @売上高マルチプル法での算出結果

となる。しかし、DCF法を使って正確に企業価値を求めると、

B企業価値 = 2 /10% =20 @DCF法

このように、売上高マルチプルは営業利益率の差を無視してしまう。このような観点から、よく使われるマルチプルは、

EBITマルチプル = 企業価値 / EBIT
EBITDAマルチプル = 企業価値 /EBITDA
PERマルチプル = 株主価値 / 当期純利益

ノイズが大きくても、数字が見つけやすい、簡単という利点からPERマルチプルも使われる。


○相方のBSはどの部分を使ったらよいか

簡単な覚え方は、用いるPLの収益は誰の取り分か?という考え方。例えば、営業利益。営業利益には、債権者の取り分と株主の取り分が含まれている。だから、比の相方は負債と株主資本の合計である企業価値。当期純利益は、すべて株主の取り分だから相方は、時価総額。と言う感じ。

間違って当期純利益と企業価値のマルチプルを使うとどなるか。MM理論より、企業価値と負債比率は無関係(節税効果はここでは無視)。ってことは、負債比率がたとえ違っていてもFCFの額が同じ企業の企業価値は同じとなるはず。しかし、当期純利益は支払利息を通じて、負債の大きさを反映してしまう。負債が大きい企業は当期純利益は小さくなり、企業価値をマルチプルの相方としてしまうと、企業価値を小さく見積もってしまう。ほんとはもっと大きいのに。。


○類似企業はどの企業を選択したらよいか

マルチプル法の意味合いに戻ると、マルチプルの中身は成長率、リスク、であった。つまり、これらが似ているかどうかが、類似企業選択の基準である。リスクが似ているためには、業種、業態が似ていることが必要である。また固定費比率もCFのばらつきに影響を与えるので企業規模も似ているとなおよいかもしれない。また成長率が似ている必要もあるため、過去のCFの成長率も比較検討する必要がある(なお、成長率については似ている必要はない。詳しくは利益倍率を参照。)。


○発射台は正常か

企業収益は様々な要因で変動する。例えば純利益。大きな設備投資、リストラ、台風による工場修理費、などなど。マルチプル法の分子である発射台の値は当該企業の正常な値である必要がある。



○余剰現金の扱い

余剰現金とは、事業に無関係な現金のこと。上の議論は余剰現金を無視したが実際は余剰現金の調
整をしてからマルチプルを計算しなければいけない。企業の時価総額は、事業の価値とその余剰現金
の価値の合計が反映されている。マルチプルを計算する時は、

企業総価値 = 時価総額 + 負債 - 余剰現金

としてからそれぞれのマルチプルを計算する。企業総価値と企業価値は区別する。特にこの( 負債 - 余剰現金 )を純負債(ネットデット)と呼ぶ。クラスで企業価値はD+Eと習うけど、一般的には、そこから余剰現金を引いた企業総価値で会話することが多い。余剰現金を引き算する意味は、余剰現金を含んでしまっている企業価値から、余剰現金を引き算することで純粋に事業の価値で企業間を比較するため。



○どういう前提でバリエーションしているか

例えば、企業買収側が対象企業の価値計算をしているのか、ベンチャー企業が上場時の株価算出をしているのか。いろいろある。理論的には上で書いてきたような使われ方をするが、実際は場合によって好まれるマルチプルがある。

・M&Aの時 EB / EBITDA
企業価値をより精度よく算出したいことからより理論に近いEV / EBITDAが使われる。

・上場時の株価算出 PERマルチプル
市場が絡むと、市場が何で価格を決めているか、が重要となる。市場はPERで株価を決めている傾向が強い。理由は、上で書いたように簡単だから。だから、ベンチャー企業の上場株価算出などの時はPERマルチプルを使う。



  • 実際の使い方、手順


1. 類似企業を数社選ぶ
2. それら企業の次年度のPLを用意。株価は今年度の収益ではなく未来の収益を反映するから。
3. それぞれの企業に今年度大きな事件がないか確認。あればその企業は排除
4. それぞれの企業の時価総額を調べる。株価×発行株式数
5. 余剰現金を算出。余剰現金=バランスシート現金同等物 - 売上高の10日分(普通は現預金+有
価証券全部を余剰現金とすることが多い。)
6. 企業総価値を算出
7. 時価総額や企業価値を求めたい企業の次年度のPLを用意。
8. 類似企業のEBITマルチプル、営業CFマルチプルなどを算出。平均を計算してはだめ。最大と最
低を認識。その幅も意味がある。
9. 求めたい企業の収益とマルチプルを掛け算し、企業価値を算出。例えば100〜300みたいに範囲
をもって算出。





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by km_g | 2011-01-24 14:45 | ファイナンス

DCF法の注意点 

DCF法のステップは、業績予測を作りFCF計算シートを作成して割引率を決定して・・・
と計算する。

営業利益*(1-税率)
+減価償却費
-Δ運転資本
-投資
=FCF

と。新しく注意しないと思った点は、残存価値を計算する時の減価償却費と投資の関係。
仮に永続成長率を0%と設定するならば、利益額が変化しないといくこと。その時には、

減価償却費=投資

となっていなければいけない。これを忘れると計算結果に大きな影響を与える残存価値の
算定を間違ってします。単純になんでもかんでも売上高比率で済ましてはいけない。作った
シートがビジネス上妥当か、自然か、とチェックする姿勢を忘れちゃいけないなぁ〜
by km_g | 2011-01-23 22:25 | ファイナンス

自炊

自炊サービスがかなり便利。自分は社会人になってから本をどんどん買い足し200冊くらいは溜まっていたと思う。しかし、一回に持ち歩けるのは数冊程度。コーポレートファイナンスなんかだと一冊でも持ち歩きたくない。

となると、家に飾ってある状態が長くなってしまう。これでは資産回転率が上がらない。読みたい時に読めないのは全くよろしくない。

そこで登場したのはキンドルと自炊サービス。オレが使っているのはブックスキャンってところ。
http://www.bookscan.co.jp/
現在は人気過ぎて4ヶ月待ちという状態。しかーし、プレミアム会員なるものに入ると50冊まで1週間でやってくれる。料金は1万円。しかもOCRつき。1冊200円換算。これは普通にやるのと実は変わらないけど’すぐに’やってくれるところがプレミアム。

あともう一つポイントは、キンドルに最適化してくれるところ。むかしはそうでなかったけど、最近始めたサービスで、容量を軽く、余白の削除、コントラストのアップ、をやってくれる。これがない時代はキンドルではまったく読めたもんじゃなかった。これができるのは、ブックスキャンだけ。

差別化できてるねぇ~。ま、すぐに真似されそうだけど。
by km_g | 2011-01-21 00:02 | 日常

コングロマリットディスカウントとは、複数の事業部をもつ企業があったとして、その奇異業全体の価値が事業部ごとの価値の合計よりも小さい状態のことを言う。

これは当然ながら良い状態とは言えない。なぜなら、各事業部が独立して存在した方が価値が高いのだから。こんな企業は、フィナンシャルバイヤーによって買収され各事業部に分割されてしまうだろう。コングロマリットディスカウントになってしまう原因はなんだろ。おそらく2つ。負のシナジーの存在か、IRに問題がある。

負のシナジーとは、互いの事業部が悪影響を与えている場合。例えば、儲かってる事業部の稼いだカネが出来損ないの事業部に使われている場合なんかがそう。ROIの高い事業にカネを使ったほうが良いのに、出来損ないの事業部の延命に使われてしまったりなんかしたらそりゃ企業価値は下がる(本来の価値に届いていないって意味で)。

IRの問題は、せっかくシナジーがあっていい組み合わせで、単独の価値の合計より高い価値があるはずなのにそれが市場に伝わっていない場合。片方の事業部のイメージが強すぎたりする場合に起こりやすように思う。これはCEOがしっかりと説明するしかない。案外アナリストがつくと一気に株価が適正になったりする。

では、コングロマリットのメリットはないのだろうか。よく指摘されるのが、ポートフォリオ効果である。複数の事業部をもつことは、要はポートフォリオを組むということだから、分散効果によってリスクが低減されて良いことのように見える。しかし、このように経営者がポートフォリオを組むことはポートフォリオの組み換えの流動性の低さが問題になる。外部環境によって最適なポートフォリオは変化するだろうしそうした場合、経営者がポートフォリオを組む場合と、単に投資家が複数の株券をもつことでポートフォリオを組む場合とで、どちらが有利かは自明だ。
by km_g | 2011-01-20 16:50 | ファイナンス